電撃のような頭痛!『疱疹』がなかなか出ず、治療が遅れた帯状疱疹。

　ある日、道を歩いている際に、突然、頭に激痛が走った。雷が落ちた、というかアイスピックで殴られたような鋭い痛みである。すぐに脳神経外科へ行った。МＲＩをとっても、原因は不明・・。
　しかし、電気ショックのような痛みは、3秒から5秒おきに休みなく続き、会話の途中にも「ギャッ!」と声が出るほどの痛みである。

　翌日、翌々日に内科、耳鼻科２軒へ行くうち、ますます痛みは激しくなった。
　右目の奥を中心に右の頭部全体に、電撃的な痛みが続いたが、どこでも頭をかしげるばかりである。処方された薬も全く効かなかった。
　
痛みが続いて4日が経過し、もう一度脳神経外科へ行くと、あまりの苦しそうな様子に同情してくれたのか、医師が「入院しますか」と言ってくれた。すがりつくように、そのまま入院した。「側頭動脈炎」の疑いがあるということで、大量のステロイドの点滴が始まった。
　しかしその点滴でも痛みは止まらず、２日が経過。
　
３日目に、今までの医師とは違う、年配の脳神経外科部長が診察してくれ、「帯状疱疹だ！」とやっと正しい診断がついた。
　わずかに出ていた、右顔面の疱疹を目ざとく見つけてくれたのだった。
それと、廊下を歩く私の姿をナースステーションから見て「あの患者は脳疾患ではない。まっすぐ歩けているから」ということも診断のヒントだったという。

　たまたまその部長先生は、ご自分も帯状疱疹の罹患経験があったことも幸いした。
　だが、私は発見が遅れ、既に発症してから7日が経過していた。６人目の医師がやっと正しい診断をしてくれたわけなのだが、「発症から３日目」までに抗ウィルス剤に加え、リリカという特効薬(鎮痛剤)を服用しなければ、一生続く人も多いという、恐ろしい「帯状疱疹後神経痛」が残る、と言われている。その期限を残念ながら、とっくに超えていた。

　１週間ほどの入院期間中、ずっと点滴をうちながら、痛みに泣き叫んでいたといってもいい。顔には常時氷枕が必要だった。１秒でも氷枕を離すと、やけど直後のようにヒリヒリ痛んだ。夜は、睡眠薬なしではとても眠れるものではなかった。
　その痛みが少なくなると、今度は見えない大男に、力の限り脳を掴まれて、絞られているような、右脳全体がひきつる痛みに変わった。休みなく拷問にかけられているような激しい痛みである。
　
　神経に潜んでいた帯状疱疹のウイルスとは恐ろしいもので、目にも鼻にも入り、結局私の嗅覚はほとんどなくなり、現在では、強いキンモクセイやヤマユリの花の香りがほぼわからない。
　目にもウイルスが入って、一時は黒目の縁が溶けだすようにどんよりしたが、こちらは幸い治った。（治療しないと、失明することもある、ということだ。）
　
その後、１年半ほどは、帯状疱疹後神経痛が続き、ペインクリニックに通わねば日常生活が送れないほどの痛みが続いた。リリカを飲み続け、排尿困難の副作用も出た。腎臓が壊れてしまうと元には戻らないそうだ。カロナール、ロキソニンという鎮痛剤も1年半飲み続けたせいで、体が冷えてひどい肩こりにもなった。
　
幸い4年後には、痛みはほぼ消失した。リリカも鎮痛剤も飲まずにすんでいる。
　
ずっと通っていたペインクリニックの先生の話では、頭部の帯状疱疹は、ウィルスが髄膜炎を起こすと、社会復帰不能になってしまうこともあるということだ。

「社会復帰不能って、どういうことですか?」と聞くと、医師はひっそりと答えた。
「私の先輩男性医師で、帯状疱疹から髄膜炎になった人がいて・・・性的なことばかりいうようになってしまって、医師をやめました・・性格が、変わってしまった・・」
「ええっーー!?　」
　本当に恐ろしい病気である。背筋が寒くなった。
　
それを聞いてから、私は嗅覚がなくなったくらいで、まだよかった、と思うことにしている。
　退院して3年後の冬から、またぶり返してきたのか、右顔面の奥がじわっと痛くなったり、右の脳のあたりで線香花火がチリチリと燃えているような、いやな痛みを感じるときがあった。
　この痛みを何とかして克服すべく、私は長く鍼へ通った。

　このように体部と違い、「頭部の帯状疱疹は、非常に危険性が高い」、ということを、是非とも皆さんに知っていただきたい。
　
　これを読んでご自分やご家族が帯状疱疹だ、と思われた方は、即刻病院へ直行するべきだと、私は強くお勧めする。
　たとえこれを読んでいるのが日曜の夜中であろうが、明日どんな大事な用事があろうが、たとえ親の葬式だろうが、である。
　治療は一分一秒を争う。あなたのこれからの半生を台無しにしたくなかったら、すぐに救急扱いでも、病院へ行くべきだ。

　私の友人知人で、2名が帯状疱疹後神経痛に悩んでいる。4年以上たつ今も、痛みが治まらず、2人とも性格が変わってしまい、うつ病のようになってしまった。

　７０代の知人は、週３回もペインクリニックへ通っている。その時間と労力と費用が、これからいったい、いつまで続くのか。
　帯状疱疹後神経痛は、一生涯続く人も多く、うつ病を発症する人も多いという。
　四六時中、拷問にかけられているようなひどい痛みなのに、外傷があるわけでもなく、痛みは自分にしかわからない。つまり周りの人には何も気遣ってもらえない。その恐ろしさは、なってみて初めて知った。

　それを考えたら、帯状疱疹のワクチンを打っておくべきだった・・今から言っても、仕方ないことだが。
　帯状疱疹のワクチン（水痘ワクチン）があることを知っていれば、、こんなことにはならなかった。１万円程度はするが、５０代以上の人は、全員打っておいた方が絶対にいいと思う。
　何しろ５０代以上の２,３人に一人の割合でなるという、頻度の高い病気なのである。
　
　どうかこれを読んだ皆さん、周りの方にも帯状疱疹の知識を広めてください。