夏が来ると思いだす中耳炎

私は、海やプールが好きだったのですが、ある事をきっかけに嫌いになりかけた時期があります。

それは、幼稚園の頃、夏の定番であるプールの時間の出来事です。

大人の膝位の深さのプールで、友達とバシャバシャ水しぶきをあげて遊んでいた時です。
左耳に水が入り、ぼんやりとして聞こえにくくなってしまいました。

私は、その内に治るだろうと、お構いなしにプール遊びで楽しみました。

その後は洋服に着替えて、おやつ時間です。

遊んだ後の気だるさの中で食べるおやつは格別なのですが、例の左耳の違和感が消えません。
当時は耳に水が入っている認識はありましたが、それをどうすれば良いか解らず、ほおっておいてしまいました。

その日の夜になると、段々に違和感が酷くなり、唾を飲み込むと左耳にズキンと痛みが出るようになりました。

翌朝になると、あくびをしても左耳がズキン、と痛むようになり、確か幼稚園が終わった後に、近所の耳鼻科に行きました。

古めかしい耳鼻科でしたが、子供たちが沢山来院していた記憶があります。

薄暗い診察室に案内されました。
子供の顔を見ても二コリともしない、まさに昭和の医者といった風貌です。

私の耳にクッキーの型取りに使うような筒を差し込み、じっくり奥を覗き込んでいます。
「中耳炎だね。ちょっと切ります」
そう言うと、まず先生は耳垢を取り、次に頭を乗せるヘッドピースの所で何かを
「シャシャ…」と、こすっています。

後から母親に聞くと、切開に使うメスを研いでいたとの事で、まるで野戦病院のような耳鼻科だったと今更ながら思います。

そして、いざ切開です。
当時の耳鼻科は今のように麻酔などしてくれません。
いきなり、その激痛は始まりました。
「ザクッ…ギシシ…グリ」と、耳の中の出来事なので良く音が聞こえます。
その不気味な音と一緒に、それまで経験した事がない、堪えようがない痛みが耳の奥から全身に広がります。

これは、けして大袈裟な表現では無く、中耳炎を麻酔無しで切開した事がある方なら、あの痛みは理解できると思います。

「この子は強い子だ、泣かずに我慢したね」
先生はそう褒めて下さいましたが、私は痛過ぎて声も出ずに固まっていただけなのです。

軽いショック状態の私の隣で母親が、脱脂綿の交換や痛み止めの薬の説明を受けておりました。

それからも、何回か中耳炎の切開を受けましたが、子供の時期に何回か繰り返す事も珍しくないようで、現に私と同学年にも３人程、毎年夏になると中耳炎になり、そこの耳鼻科で麻酔無し切開を受けているつわものがいました。

中耳炎かどうかの、私なりのチェックポイントは、唾を飲み込んだ時とあくびをした時に、耳の奥に痛みを感じるかどうかです。
もしも、痛みが出たら、早めの受診をお勧めします。

今の耳鼻科では、ちゃんと麻酔もしてくれて切開もほとんど痛みを感じないとの事で、あの頃にそんな耳鼻科があれば、海やプールにおびえる事も無く、もっと無邪気に夏休みを楽しめたのに、と思いました。