男らしさを発揮できないまま大人に。クラインフェルターのせいであった。
ひとりん530
(50歳代・男性)
結婚を機に調べた検査で染色体異常が見つかった。通常の男女よりも染色体が一本多いクラインフェルター症候群である。
そういえば、子どもの時から特徴はあった。
背がひょろりと高くて、色白、気管支関係が弱くすぐ熱が出る。思春期になっても声変わりせず、筋肉もつかず、毛が薄い。精通はあったが性欲はあまりない。
そんな青春時代。男性なのに男らしさを発揮できないまま大人になった。
社会に出ても、同年代よりも体力がなく疲れやすい。運動不足だと指摘され、ジムに通うが、基礎体力がないうえに関節も弱いため、少し運動してはすぐ体調不良に陥ったり、筋を痛めたりした。
30歳を超えてから代謝も悪くなり、普通に食べているだけなのにブクブクと太り、コレステロール・中性脂肪の数値も相当高く、成人病まっしぐらというような最悪な状況であった。
そんなとき、お見合いの話があった。
こんな醜くて病弱な自分と人生を歩んでもよいという奇特な(?)方が現れたおかげで、結婚することができた。しかし、直後に行ったブライダルチェックを兼ねた健康診断で、冒頭の死刑宣告が下されたのだ。
これまでの、なんだかわからないけど人と何かが違う違和感、万年続いている体調不良の原因がそれによって判明したのだ。加えて、精子が生成されないという男としては致命的な部分も判明してしまった。
妊娠させられないつらさが募る。
ただ、精液中にはなくとも、精巣内に細胞があれば、培養後に顕微授精で妊娠の可能性もあるとのことだった。それを確認するには、その細胞が生きているものかどうか精巣を切開して調べないといけないとのことで、検査の結果がわかったおよそ1年後、大阪大学医学部附属病院に入院し手術を受けた(MD-TESE 顕微鏡下精巣内精子採取術)。執刀医は男性不妊の専門である辻村晃先生だった。
事前に辻村先生からは、以下のように言われていた。
「確かにこの方法でクラインフェルターの方にも希望が見いだせるようになった。しかし、統計では35歳以上の成績が極端に悪くなる。阪大の実績ではクラインフェルターの方で精子が見つかる確率は全体で46%、ただ、35歳以上だと2割以下となる。しかもあなたの場合、テストステロンの値が、ただでさえクラインフェルターの方の数値は低いのに、それよりもものすごく低いので期待は薄い。でも、やってみないとわからない。」
そこまで言われたら、やっぱり手術はやめようとなるが、妻の期待と自分自身の好奇心もあり、手術を受けることにした。
4日間の入院で、2日目に手術を受けた。当日の朝、下剤を飲み、腸のなかをすっからかんにしてから、手術室に歩いて向かう。なかには、看護師や麻酔科医、執刀医などスタッフが数十人おり、なかば、工場のようであった。同じ時間に手術を受けるおじさんとしばらく話した。おじさんは、前立腺がんとのことで、手術で取りきれる範囲だ、でも、手術ははじめてなので不安だねーとか、僕もそうですよ、僕の場合はクラインフェルターっていう、体質みたいなもんで、病気じゃないんですよね、などぐだぐだとしゃべって、互いに手術前の不安をまぎらわせていた。
一応、妻と両親も付き添いに来てくれていた。が、今生の別れのような悲壮な顔をしてたので、たかだか、数時間の手術で、そんな顔すな、と思ったが、まぁ、これが親心妻心なのだろう。
とにかく、手術室に入りしばし付き添いとはお別れで、自分は工場みたいな通路を通り、さらに奥の部屋に通された。
そこは手術室というより、言葉は悪いが「物体」を処理する作業場のような雰囲気だった。
20畳くらいの部屋に看護師・麻酔科医が10人ほどいて、鯉をまな板にのせる準備をしていた。
手術台にのせられ、確か麻酔科医がいろいろ喋りかけてきてくれた。その間にも看護師がぶっとい注射針を腕に刺していた。たぶん安定剤かなにかだと思う。看護師も麻酔科医も女性で、頭上でガールズトークを始めた。あの先生は男前だの、こないだ赴任してきた先生は妻子もちだ、あぁ、残念だとか、そないなことを頭上で繰り広げられているうち、気がつけば手術が終わっていた。
酸素マスクと点滴、導尿管、完全に病人になっていた。
いつのまにか病室に運ばれ、そばには妻と両親がいた。麻酔の影響でいろいろあることないことしゃべりまくっていたらしい(エッチなこととか言ってなかったかな?)。
その後、執刀医である辻村先生から別室に妻と両親が呼ばれ、経過説明が行われた。
自分の精巣はクラインフェルターによるテストステロンの低下により障害を受け、萎縮し黄色く変性していたそうで、もう、使い物にならなくなっていたそうだ(先生はそんなひどい言い方はしなかっただろうが)。これから、詳しい病理検査に回すが、期待はなさらない方がよろしいでしょうとのことだった。
この歳でこのくらいのテストステロンの量で、これまでしんどかったと思います。よく頑張ってきたと思います。とも言ってくださった。
誰にも理解されない、両親にさえも心が弱いからだと言われ続けた自分の意味不明な体調不良が、その一言によって、理解されたような気がした。
退院後、辻村先生から自宅に電話があり、やはり、精子は見つからなかったとのことだった。
窓から見える夕焼けが眩しすぎた(完)。
コメント(4件)
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Aaaただひとこと、とても大変な思いをして来ましたね。
頑張って生きてこられたのですね。
これからも頑張ってください。投稿:2015/10/20 18:17 -
ひとりん530変な文章を読んでいただき、どうもありがとうございます。
まぁ、これまでのことはもう終わったことなので、次のステージへ前向きに進んでいこうと思います。
それと、これは知っておいていただきたいのですが、ちまたでは、クラインフェルター症候群と性同一性障害が並べて論じられています。しかし、クラインフェルター症候群は性分化疾患であり、性同一性障害とは異なります。
よく当事者のblogで、自分はクラインフェルターで男性らしい特徴が薄く、女性のような体つきをしていることから、アイデンティティーの混乱を来し、女性ホルモンを投与して女性として生きておられる例が見られます。
確かに、男らしくないことが、心理・社会的に影響を受けていることは事実です。かといって、それがイコール自分は女性であるという確信を持つこととは、まったく別問題です。
現に私は男であり、女の子を見るとワクワクし、男として女を守りたいと考えています。
こんな感じです。投稿:2015/10/20 21:39 -
Caloouser61010ご縁があり、理解のある奥様で良かった。
どうか穏やかな家庭でありますように。投稿:2015/10/22 18:08 -
Aaa男らしい心を持った貴方だからこそ善き伴侶にも恵まれたのだと思います。
私にはその様な伴侶に恵まれませんでした。
幸い子どもは授かり皆それぞれに家庭を持ち、孫にも恵まれました。
しかし、伴侶と添うことはできずに離婚という道を選びました。
現在は善き異性の友に廻り合い大人同士の付き合いをさせていただいております。
あなた様も末永く幸あれと心より祈っております。
投稿:2015/10/22 18:23
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