表面に現れているクレームや言葉ではなく奥にある共通のニーズを引き出し解決していく 医療メディエーター協会代表理事 和田仁孝早稲田大学教授に聞く
最終更新日: 2010年11月09日
記者: 具志林太郎
記者:医療メディエーターについて簡単に教えていただいてよろしいでしょうか?

和田氏:患者さんと医療関係者というのは同じ現象を見ていても違う捉え方をすることがあります。例えば、形成外科の医師が患者さんにこの手術をすると傷痕はきれいに治りますと説明したとします。実際の手術後、医師側は手術は成功しきれいに治ったと満足しても、患者側は患者の考えるきれいの定義が医師と異なったためきれいに治ったとは思わず、クレームに繋がるケースです。
医療メディエーターはそういった患者さんと医療関係者のギャップを埋めていくことともに、表面に現れている主張や言葉ではなく奥にある共通のニーズを引き出し解決していく役割を担います。
記者:院内医療メディエーター養成教育プログラムについて教えてください
和田氏:院内医療メディエーター養成教育プログラムは1回30名程度の受講者に対して講師が2〜5名付いて行われる2日間の研修です。この研修を通して院内医療メディエーターの認定を行っています。
2005年から研修を初めまして、当初は79名からスタートしましたが、参加希望者や医療機関が急激に増えておりまして、2010年度は2,500名に達する見込みです。参加者の内訳は看護師が70%、医師が20%、その他コメディカルなどが10%程度となっています。
記者:医療メディエーターを導入された医療機関の反応はいかがでしょうか?
和田氏:実は医療メディエーターは、医療事故の事故後対応が出発点だったのですが、実際に活躍されている医療メディエーターの方にアンケートを取るとメディエーション実践の効果として1位が「日常診療での患者対応の質」、2位が「患者に向き合う姿勢」と日常業務での効果を実感している方が多かったのです。当初の目的であった「医療紛争解決の質」は5位と稀にしか起こらない医療事故よりも患者対応といった日常業務で効果を実感できるようです。

また、導入当初は一人しかいないメディエーターに院内の依頼が集中するのですが、そのメディエーターの方が院内で他の医療従事者に研修を行ったりすることで、現場レベルで解決ができるようになり、その結果、メディエーターに対する依頼が減って、最終的にはクレームそのものが減少してくるという例もありました。
これは、メディエーションの考え方を院内の一人ひとりの医療従事者が理解することで、患者対応の質の向上が起こり、結果としてクレームそのものが減ってきているのだと考えています。
東京都内では北里大学病院、武蔵野赤十字病院などが積極的に取り入れてくださっています。
記者:医療メディエーターの今後についてどのようにお考えですか?
和田氏:もともとは医療事故の対応を目指したものでしたが、日常的な患者対応にも十分効果があることがわかってきましたので、クリニックのような小規模な医療機関での導入も進んできそうです。
また、医療メディエーターの活用の仕方も多様になってきそうです。東北のある病院では、医師の診察に医療メディエーターを同席させて患者側が医師の説明を理解できていないようならアドバイスを入れるなどこれまでにない活用の仕方を始めています。

和田仁孝 略歴
早稲田大学大学院法務研究科教授。早稲田大学紛争交渉研究所所長。法学博士(京都大学)。京都大学法学部卒業。京都大学大学院法学研究科修了。ハーバード大学客員研究員、京都大学助手を経て、1988年九州大学法学部助教授、1996年同教授。2004年より現職。日本法社会学会理事・事務局長。日本学術会議連携会員。Law & Society Association. Program Committee委員(2002〜03)。財団法人日本医療機能評価機構・認定病院患者安全推進協議会・教育プログラム部会委員。
著書紹介

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