糖尿病新薬のインクレチン関連製剤（DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬）について 朝日生命成人病研究所治験部長 大西由希子氏に聞く

記者：DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬について簡単にご説明頂けますか？

朝日生命成人病研究所治験部長 大西由希子氏

大西氏：簡潔に申し上げますと、どちらも以前から知られていた腸管からでるインクレチンというホルモンをいかして、すい臓へ作用させインスリンの分泌を促すというものです。DPP-4阻害薬はGLP-1やGIPというインクレチンホルモンを分解してしまうDPP-4という酵素を阻害し、GLP-1受容体作動薬はDPP-4に分解されないよう加工したGLP-1アナログ（生理的GLP-1に似た構造のもの）を直接体内に皮下注射してすい臓からのインスリン分泌を促すというものです。

記者：インクレチン関連製剤（DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬）が向く患者とはどういった方でしょうか？

大西氏：インクレチン関連製剤は、インスリンの分泌を促進させるためのものなので、インスリン分泌能が低い方により有効です。具体的には痩せ型の糖尿病患者さんです。また痩せ型の糖尿病患者さんは遺伝が関係していることが多いので、そういう意味では遺伝要因の強い糖尿病患者さんとも言えると思います。しかし、肥満型の糖尿病患者の方でもインスリン分泌不全を併せ持つかたもいますので、痩せ型ではなくても有効なことはもちろんあります。

また、これは新薬ですので発売後1年間は2週間分しか処方できません。そのため遠方の患者さんで2週間に一度も薬をとりにくるために来院できないという方には処方が難しいのが現状です。特に大きい病院さんですと遠方から患者さんも多い傾向にあると思いますので、本格的な処方は発売開始後1年してからにしようというところもあると思います。

記者：インクレチン関連製剤の副作用についてはどう考えたらいいのでしょうか？

大西氏：DPP-4阻害薬については単剤で治療する限り低血糖などの大きな副作用は少ないです。ただし、SU薬との併用の際には低血糖に注意が必要です。経口薬（飲み薬）ですし扱いやすいと思います。GLP-1受容体作動薬は下痢・便秘や嘔吐や悪心を起すことがあります。一方、食欲ないし摂取を抑える作用もみられることがありますから、これは減量に繋がります。

記者：インクレチン製剤の今後の展望について教えてください

大西氏：DPP-4阻害薬は副作用も少ないですし経口薬で扱いやすいので糖尿病の初期段階から積極的に使えるようになると思います。GLP-1受容体作動薬も注射であることを除けば、期待できるお薬です。ただし、それらが本当に糖尿病患者さんの将来にメリットのある薬なのかどうかを知るには長期的な臨床データが不足しています。

記者：最後に読者の方に一言頂けますか？

大西氏：新薬が発売されるとそれさえあれば治るのではないかという過度の期待感が出てきますが、この薬も人によって合う、合わないがありますし、糖尿病がこの薬で完治するわけではありません。糖尿病治療の基本は依然として食事療法と運動療法です。これをしっかり行っていくことが大前提です。また当たり前のことですが、実際にご使用になる際は主治医の方とよくご相談頂きたいです。