Caloo(カルー) - [特集記事] 【糖尿病最前線】糖尿病診断アクセス革命を主導する 東京大学特任准教授矢作直也氏に聞く
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糖尿病最前線 - インタビュー記事

糖尿病は検査をしなければわからない。もっと身近に糖尿病をチェックできる仕組みが必要だと思った。 —— 糖尿病診断アクセス革命を主導する 東京大学特任准教授矢作直也氏に聞く

最終更新日: 2010年10月20日

記者: 具志林太郎

Caloo編集部では、10月12日より始まった薬局にて無料で糖尿病チェックを受けられる「糖尿病診断アクセス革命」を主導する東京大学特任准教授の矢作直也氏にインタビューを行った。

記者:糖尿病診断アクセス革命を始められたきっかけは何でしょうか?

東京大学 特任准教授 矢作直也氏 東京大学 特任准教授 矢作直也氏

矢作氏:今年の2月に東京インターナショナルギフト・ショーというものが東京ビッグサイトでありまして、その会場でヘルスチェックコーナーを設けて来場者に糖尿病のチェックを行ったのですが、結果的にはそれが今回のプロジェクトを始める直接のきっかけとなっています。

もともと鳩山政権下での事業仕分けなどから、医療の分野も世の中にもっとわかりやすく伝えていく、目に見えるアクションを取っていく必要性を感じていました。

また糖尿病人口が増え続け、今年はついに1000万人の大台に乗ると予想される中、実は医療機関を定期受診している糖尿病患者数は240万人前後とされており、この10年くらい横ばいです。つまり、実は治療を受けていない人の方がずっと多い現実があり、目の前の患者さんの治療だけを行っていればよいということでは全くない、ということはずっと以前から問題意識としてありました。

そんな中、三和化学さんが指先採血で簡単にしかもその場でヘモグロビンA1c(以下HbA1cと表記)の値がわかる医療機器を持ってこられました。

始めに持って来られた時は、非常に便利で可能性を感じる医療機器だが、どうやって利用したらよいのかのアイディアが出ずしばらくそのままになっておりました。

その後、日本ウェルネス協会さんから東京インターナショナルギフト・ショーでブースを出すのにいいアイディアはないかと相談を受けました。その時、三和化学さんの医療機器を使って来場者のHbA1cの値をチェックしてあげるブースを出すのがいいのではないかと思い付いたわけです。三和化学さんの機械ならその場で結果を来場者の方に示せますし、HbA1cの値は血糖値と異なり安定しているなどイベント会場での糖尿病チェックにぴったりだと思ったわけです。

記者:ギフト・ショーで実際に出されてみて評判はどうだったのでしょうか?

矢作氏:結局、2月にギフト・ショーの一角で4日間ブースを出したのですが、なかなか盛況でして、170人の来場者の方が糖尿病チェックを受けまして、その内10名くらいの方が糖尿病の疑いがあるとの結果が出ました。

この企画は指先HbA1c検査を一般向けに大規模に行ったイベントとしては我が国初のものでした。ギフト・ショーでのこの企画は大好評でしたので、その次(今年9月)の時にもぜひやって欲しいと頼まれまして、9月にも行ったところ、さらに多くの方々(約3倍増で450名くらい)にご来場頂きました。

記者:ギフト・ショーの後、薬局での糖尿病チェックを行おうと考えられた経緯を教えて頂けますか?

矢作氏:実は、ギフト・ショーを行った際、東京ビッグサイトがある江東区の保健所から指先HbA1c測定が医療行為に該当する可能性があるので、医療機関の届を出して欲しいと要請されました。実際、医療機関の届けを提出しまして、医師が常駐する形で糖尿病チェックを行ったのですが、これでは病院で行うものと大差がないなと。

もっと身近に医療機関以外で糖尿病チェックを受けるにはどうしたらよいか考えまして、薬局が適当だと思ったわけです。しかし、同じような検査事業を企業として行っている会社さんがなかなか苦労されていると聞いていましたので、医師会、薬剤師会との連携を密にして進めた方がよいとも考えました。糖尿病診断アクセス革命が、東京大学、NPO法人ADMS、足立区薬剤師会の共同研究事業になっているのはそのためです。

現在薬局に置かれているHbA1c検査機器 現在薬局に置かれているHbA1c検査機器

記者:指先HbA1cのメリット・デメリットを教えてもらえますか?

矢作氏:メリットは指先の一滴の採血で、その場で安定した血糖値の状態を計れることです。通常の血糖値は食前・食後などで時々刻々と変化してしまい一度の検査だけだと判断が非常に難しい。HbA1cはヘモグロビンに糖分がどのくらいの割合付着しているか調べるので直近の食事の影響を受けず、過去1-2ヵ月の平均的な血糖の状態を調べることができます。

デメリットは、ブドウ糖負荷血糖値と比べるとやや感度が低いことです。そのためHbA1c単独では糖尿病の診断を下すのは難しいのです。しかし、身近でチェックしてスクリーニングのために使うと考えると現在ある糖尿病検査の中ではベストでしょう。

記者:指先HbA1c測定はどういった方が受けたらよいのでしょうか?

矢作氏:定期的な健康診断を受けていない方です。特定健診は40歳から対象になっていますが、30歳くらいからチェックした方がいいと思っています。糖尿病は発症する前にじわじわと血糖値が上がってくる局面があるからです。

糖尿病を発症してしまった方の食事制限は想像以上に大変です。人と食事する際にも制限しないといけないですし、お酒にも制限がでてきます。結果としてはQOL(クオリティオブライフ)を大きく下げることになります。糖尿病予備群で気付けば食事制限はもっと軽く済みます。

また、合併症が進むとさらに大変です。毎年1万8000人の方が糖尿病が原因で人工透析をしなければならなくなっていますし、毎年3000人の方が糖尿病性網膜症により失明しています。

記者:最後に読者の方へのコメントを頂けますか?

矢作氏:糖尿病は検査をしなければわからない病気です。肥満が要因になっている面もありますが、痩せている方でも発症する方はいますし、自覚症状もほとんどありません。検査をしなければわからない病気にも関わらず、40歳以上の特定健診の受診割合は30%台です。

今回、簡単に糖尿病チェックを行える新しい医療機器ができたので、これを活用して糖尿病に対する理解が広がる仕組み作りができるとよいと思います。

2010年10月現在、東京都足立区の9つの薬局で検査を受けることができる 2010年10月現在、東京都足立区の9つの薬局で検査を受けることができる

記者のコメント

矢作氏は温和な人柄と語り口ながら糖尿病治療に対して強い意志を持っておられました。糖尿病を予備群レベルで見つけ治療するべきというのは糖尿病に携わる多くの医師が共通に持っている考えだと思われます。

しかし、それをどうしたら実現できるかを日々の診察、研究、論文執筆に追われながらも真剣に考え、実行に移した矢作氏の熱意と行動力には感服せざるを得えません。

今回、矢作氏がNPO法人ADMS、足立区薬剤師会、三和化学、そして実際に糖尿病チェックを行う9つの薬局と多く協力者を得た背景には矢作氏の熱意と人柄によるものではないかと取材を通して感じました。

矢作直也氏

矢作直也 略歴

1994年東京大学医学部医学科卒業、同大学院医学系研究科内科学専攻修了(医学博士)、東大病院糖尿病代謝内科医員、日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院医学系研究科クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット助手、同21世紀COE助教を経て、2008年より東京大学大学院医学系研究科分子エネルギー代謝学講座特任准教授。肥満・糖尿病と動脈硬化を中心に、代謝内科学の研究と臨床に従事。日本糖尿病学会専門医。

著書紹介

糖尿病診断アクセス革命
矢作 直也
SCICUS 2010/11/14
糖尿病NICEBOOK
矢作 直也, 大西 由希子
SCICUS 2010/11/14
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