最終更新日: 2010年10月29日
記者: 具志林太郎
糖尿病は血液中の糖濃度が高い状態が続く病気だ。血液中の糖分はすい臓から分泌されるインスリンにより処理されるが、図表1のようにすい臓に問題がありインスリンの分泌が少なくなったり、図表2のようにインスリン自体は正常に分泌されていてもインスリンの血糖降下作用が低下すると血液中の糖濃度が上昇する。これが糖尿病の基本的な病態だ。
今回のDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬はすい臓に作用しインスリンの分泌を促す新薬である。つまり、すい臓になんらかの問題がありインスリンの分泌が少ない状態を改善するものである(図表1)。
DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬はどちらもGLP-1という腸管ホルモン(インクレチン)をすい臓に作用させることでインスリン分泌を促進し血糖値を下げる。高血糖時にインスリン分泌を促進するので単剤で使用した場合は低血糖を起こす可能性が低く、また太りにくいという長所もある。
DPP-4阻害薬は、GLP-1やGIPなどのインクレチンホルモンを分解するDPP-4という酵素を阻害することで腸管から分泌されたGLP-1やGIPの作用時間を長くしてその作用を強くする経口薬(飲み薬)である。服用は1日1回、もしくは1日2回のものがある(図表3)。このようにインクレチンホルモンの作用を生かした薬なのでインクレチン関連薬とよばれる。
GLP-1受容体作動薬はDPP-4に分解されにくくしたGLP-1アナログ(生理的GLP-1に似た構造のもの)を直接皮下に注射してすい臓に作用させる注射薬である。インスリン分泌の促進に加え食欲ないし摂取を抑える作用があるとされる。現在発売されているものはビクトーザのみで1日1回の注射薬である(図表4)。
インスリンの分泌を促進させる治療薬のため、インスリン分泌能が低い病態に効くと考えられる。遺伝因子が強かったり、痩せ型の糖尿病患者ではインスリン分泌不全が主たる病態と考えられるため、このような患者に効果的であると期待される。肥満型の糖尿病患者はインスリン分泌が増えても血液中の糖分を細胞に取り込めない、つまりインスリン抵抗性が高い(図表2)ためインスリン抵抗性を改善する薬から使われることが多いが、インスリン分泌不全を併せ持つことも多いため、インクレチン関連薬が併用されることもある。
古くから腸管よりインスリン分泌を促進する物質が出ていることは知られていた。ブドウ糖を口から投与したときは静脈注射で投与したときと比べるとインスリンの分泌量が2倍以上も多く出ていたことからも腸管から何らかの物質が分泌されていると考えられていた。
この腸管から出るホルモンは1932年にインクレチンと名付けられGLP-1もその一つであることもその後知られるようになった。しかし、GLP-1は血中などに存在しているDPP-4という酵素によって分解されてしまうためすい臓まで届かせにくくこれまで治療薬となっていなかったという経緯があった(図表5)。
今回、このDPP-4の活動を阻害するDPP-4阻害薬、DPP-4の影響を受けにくいGLP-1を直接体内に注射するGLP-1受容体作動薬が開発されるにいたったことはインクレンチの概念が生まれてから実に100年が経過している。また、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬がインクレチン関連製剤と言われるのもこのためである。
系統 | 製品名 | 一般名 | 製薬会社名 | 発売年 | ジェネリック |
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スルホニル尿素(SU)薬 | オイグルコン/ダオニール | グリペンクラミド | 中外製薬/サノフィ・アベンティス | 1971 | 有り |
スルホニル尿素(SU)薬 | アマリール | グリメピリド | サノフィ・アベンティス | 2000 | |
即効型インスリン分泌促進薬 | スターシス | ナテグリニド | アステラス製薬 | 1999 | |
即効型インスリン分泌促進薬 | ファスティック | ナテグリニド | 味の素製薬/第一三共 | 1999 | |
即効型インスリン分泌促進薬 | グルファスト | ミチグリニド | キッセイ薬品工業/武田薬品工業 | 2004 | |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | グルコバイ | アカルボース | バイエル薬品 | 1993 | 有り |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | ベイスン | ボグリボース | 武田薬品工業 | 1994 | 有り |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | セイブル | ミグリトール | 三和化学研究所 | 2006 | |
ビグアナイド薬 | グリコラン/メルビン | メトホルミン | 日本新薬/大日本住友製薬 | 1961 | 有り |
インスリン抵抗性改善薬 | アクトス | ピオグリタゾン | 武田薬品工業 | 1999 | |
DPP-4阻害薬 | ジャヌビア/グラクティブ | シタグリプチン | MSD/小野薬品工業 | 2009 | |
DPP-4阻害薬 | エクア | ビルダグリプチン | ノバルティスファーマ | 2010 | |
DPP-4阻害薬 | ネシーナ | アログリプチン | 武田薬品工業 | 2010 | |
DPP-4阻害薬 | 未定 | リナグリプチン | 日本ベーリンガーインゲルハイム | 治験中 | |
GLP-1受容体作動薬 | ビクトーザ | リラグルチド | ノボノルディスクファーマ | 2010 | |
GLP-1受容体作動薬 | バイエッタ | エキセナチド | 日本イーライリリー | 製造承認取得 | |
GLP-1受容体作動薬 | 未定 | AVE0010 | サノフィ・アベンティス | 治験中 |
DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬の開発のきっかけとなったのは、1992年にアメリカのJohn Eng教授がアメリカ毒トカゲの唾液から発見したExendin-4という物質。ちなみにアメリカ毒トカゲは上野動物園で展示しているので日本でも見ることができる。
注:現在発売されているインクレチン関連製剤の原料に毒トカゲの唾液が使われているわけでありません。
DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬を単剤で投与する場合は低血糖のリスクは少ない。しかし、スルホニル尿素(SU)薬などと併用する場合には低血糖への注意が必要である。
分類 | 製品名 | 一般名 | 製薬会社名 | 併用可否 | |||||
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スルホニル尿素(SU)薬 | チアゾリジン誘導体薬 | ビグアナイド薬 | 速攻型インスリン分泌促進剤 | αグルコシダーゼ阻害薬 | インスリン注射 | ||||
DPP-4阻害薬 | ジャヌビア/グラクティブ | シダグリプチン | MSD/小野薬品工業 | ○ | ○ | ○ | × | × | × |
DPP-4阻害薬 | エクア | ビルダグリプチン | ノバルティスファーマ | ○ | × | × | × | × | × |
DPP-4阻害薬 | ネシーナ | アログリプチン | 武田薬品工業 | × | ○ | × | × | ○ | × |
GLP-1受容体作動薬 | ビクトーザ | リラグルチド | ノボノルディスクファーマ | ○ | × | × | × | × | × |
DPP-4阻害薬は大きな副作用もなく単剤では低血糖を起こしにくく経口投与(飲み薬)で扱いやすいなどの理由から糖尿病の初期段階の治療から用いることができる。GLP-1受容体作動薬も初期段階からの治療に適してはいるのものの、実際は注射薬であるため、他の糖尿病治療薬で血糖値を十分下げられなかった患者や食欲ないし摂取を抑える作用を意識した治療の際に選択されるだろう。