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耳鳴り特集

耳鳴りの治療法と最新情報 さとう耳鼻咽喉科医院 院長 佐藤祐司 先生に聞く

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最終更新日: 2016年7月15日

耳鳴りの治療方法や最新情報について、さとう耳鼻咽喉科医院 院長 佐藤祐司 先生にお話を伺った。

記者:耳鳴りを感じている人はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

佐藤先生:日本の人間ドックでは、聴力正常の男性の9%、女性の12%に耳鳴りがあるといわれています。

記者:耳鳴りはなぜ起こるのでしょうか?

佐藤先生:外界から入った音は外耳道、耳小骨連鎖を経て蝸牛に伝えられ、ここで音の高さ(周波数)の区別が行われて電気信号として大脳皮質の聴中枢に伝えられます。これを求心路と呼びます。

一方、大脳皮質から蝸牛の有毛に信号を送る神経線維がありこれを遠心路と呼びます。耳鳴りは音が入ってこないのに何らかの異常により脳や蝸牛内で電気信号が発生(自発放電)したような状況と考えられています。

耳の構造

記者:耳鳴りと年齢の関係はありますか?

佐藤先生:耳鳴りは加齢とともにその頻度が高くなります。50歳を過ぎたあたりから増加し、60歳代~75歳以下で出現率が高くなっています。男女比で言うと若干男性が多い傾向はありますが、性差はありません。

また、小児でも耳鳴りは起こりますが、一過性で短時間の症状が多いです。

記者:現在の耳鳴りの治療法や最新情報について教え下さい。

佐藤先生:耳鳴りは自覚的症状であるため評価が難しく、これが病態解明、薬の開発が困難な理由の一つでもあります。しかし、臨床的な研究は世界中で行われており、臨床像は徐々に明らかになってきています。細かい分類を省くと、耳鳴りの原因は難聴に起因するものと、精神的な要因によるものの大きく2種類があります。

難聴に起因する耳鳴りの場合、内耳からの情報が聴覚野に正常にインプットされないことにより側方抑制が減少し、異常な信号が発生します。この異常な信号が耳鳴りではないかと考えられ、これに対応するためには、正常なインプットに近づけることが必要です。

そのために有効な治療がTRT(tinnitus retraining therapy)療法です。TRT療法とは脳に音響刺激を与えることにより耳鳴りを抑えることが目的であり、現在一番有効とされる治療具が「補聴器」です。自然の聴覚に近い刺激を脳にインプット可能な補聴器により、耳鳴りの改善が期待されます。

これに対して精神的な要因による耳鳴りは無難聴性耳鳴と呼びます。こちらは極めて難治で、よくあるケースは交通事故後、ストレス・過労によるものです。 なぜ発生するかはまだわかっていませんが、おそらく前頭前野の異常興奮が聴覚野を刺激することに依るのではないかと思います。

難聴ではないのでTRT療法は効果が薄い場合が多く、残念ながら抗うつ薬、抗不安薬を投与しながら経過観察する他ないケースが多々あり、症状が強い場合は精神科へ紹介することも多いです。このような患者はドクターショッピングを繰り返し、市中病院、大学病院を渡り歩くと言われています。ただし、明らかにうつ病に伴う耳鳴りの場合は抗うつ薬で改善するケースもあります。

なお、薬物療法は様々な方法(アデホス、メチコバール、ストミン、抗不安薬、抗うつ薬、SSRIなど)が行われてきましたが、今のところ「これが絶対良い」というものはありません。ただし、耳鳴りに随伴する症状の改善のため眠剤を処方する、などは有効な使用法と考えます。

記者:耳鳴りではと心配されている患者様へのメッセージをお願いします。

佐藤先生:耳鳴りで悩まれている方は多いと思いますが、病院に行っても医師から「治らないよ」と言われてがっかりされたこともあるのではないでしょうか?耳鳴りの原因は徐々に解明されてきていますが、まだまだ分からない点も多く残っています。

最近では耳から脳までの聴覚路のどこかに小さな損傷ができていてそれが原因とも考えられています。中には脳の動脈瘤や聴神経の腫瘍のこともあるので、検査でこれらの「こわい病気」ではないことを確認できたら、耳鳴りが悪化するような生活を避けるようにしてください。

特に不眠と疲労は悪化させるので、これらの治療、回復させることで耳鳴りを改善できることもあります。

耳鳴りはぴったり止めることは難しいけれど、日常生活を送る上で付き合っていけるものだと理解していただけたらと思います。

佐藤 祐司 略歴

  • 1984年 産業医科大学医学部卒業
  • 1986年~1989年 労働福祉事業団熊本労災病院 耳鼻咽喉科 勤務
  • 1991年~1994年 労働福祉事業団九州労災病院 耳鼻咽喉科 勤務
  • 1998年~2001年 労働福祉事業団筑豊労災病院 耳鼻咽喉科 勤務
  • 2001年~    現職

資格等

  • 耳鼻咽喉科専門医
  • 日本耳鼻咽喉科学会
  • 騒音性難聴に関する専門医

所属学会

  • 日本耳鼻咽喉科学会
  • 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会